はじめに
過去に、Arch のカーネル更新で起動不能になったことがある。原因は外付け USB WiFi のドライバ(8821au、out-of-tree の DKMS)が新カーネルでビルドに失敗し、起動はするのにネットに繋がらない状態になったことだった。ネットが無いと直すための情報もパッケージも取れず、結局 live USB 行き。そのトラウマで、以来カーネルを IgnorePkg で 6.13.8 に固定して更新を止めていた。
だがカーネル LPE を使い捨て VM で体験して、「固定して止める=脆弱性を放置する」運用が割に合わないと腹落ちした。そこで今回、固定をやめて安全に更新し続ける体制に作り直した。やったことは、原因の DKMS を捨てて in-tree ドライバだけにする・linux-lts を保険カーネルに入れる・固定を解除して -Syu で追いつかせる、の 3 つ。再起動後は全デバイス(WiFi / カメラ / マイク)が動いた。
起動はするのにネットが無い、という詰み
起動不能と言っても、画面が真っ黒で何も出ないわけではなかった。起動はする。でも WiFi が死んでいる。 これが一番タチが悪い。
- ネットが無いので、原因を調べる記事も、直すためのパッケージも取れない。
- 「カーネルを戻せばいい」と分かっていても、その操作に必要なものをダウンロードできない。
- 結局、別マシンで live USB を焼いて chroot して…という大ごとになる。
原因は out-of-tree なドライバだった。8821au のような USB WiFi ドライバは DKMS でカーネルごとにビルドされるが、カーネルが上がると非互換やビルド失敗を起こす。それが必須デバイス(ネット)だと、上の悪循環に直結する。
この事故のあと、私は安易に「カーネルだけ IgnorePkg で固定」して更新を止めた。これが次の問題になる。
カーネルだけ固定は Arch では危険
「危ないカーネルだけ止めて、他は更新すればいい」── 直感的だが、Arch では地雷だ。
- Arch は rolling release で、partial upgrade(部分更新)は非サポート。
pacman -Sy <pkg>単独や、カーネルだけIgnorePkgで残す運用は、glibc / ABI のずれを招く。 - ずれた状態で何かのきっかけで再起動すると、今度は固定とは別の理由で壊れる。
つまり「固定して安心」しているつもりが、別の不発弾を抱えていた。正しい方向は固定をやめて、壊れない形で常に full upgrade することだ。
解決策:原因を消す → 保険を積む → 追いつく
1. 原因の out-of-tree ドライバを捨てる
内蔵の Intel WiFi(iwlwifi)は in-tree なので、カーネルに同梱されて更新に自動で追従する。壊れない。外付け USB WiFi に依存していたのが事故の根なので、in-tree で足りるなら DKMS パッケージは消す。
sudo pacman -Rns <dkms-package> # 例: rtl8821au-dkms-gitこれで「カーネル更新で WiFi が死ぬ」経路そのものを断った。
2. linux-lts を保険カーネルにする
最新カーネルがコケても GRUB の “Advanced options” から linux-lts で起動できれば、live USB 無しでネットありの環境に入って復旧できる。
sudo pacman -S linux-lts linux-lts-headerssudo grub-mkconfig -o /boot/grub/grub.cfg3. 固定を解除して追いつく
IgnorePkg を外し、改めて full upgrade でカーネルを最新まで上げる。
sudo pacman -Syu # 個別 -S / -Sy 単独は禁止(partial upgrade になる)更新中に踏んだ衝突
追いつかせる過程で linux-firmware の分割に由来する衝突を踏んだ。
error: failed to commit transaction (conflicting files):linux-firmware-nvidia: /usr/lib/firmware/... exists in filesystemこれは linux-firmware がサブパッケージに分割された影響で、旧 linux-firmware を一旦消して入れ直せば抜けられる。再起動さえしなければ無害だ。
sudo pacman -Rdd linux-firmwaresudo pacman -Syu linux-firmware復旧手段も残しておく。/var/cache/pacman/pkg の旧パッケージは消さない(pacman -Scc 禁止)。何かあれば sudo pacman -U <旧pkg> で前バージョンへ戻せる。
結果
固定(6.13.8)を解除し、linux を最新(7.0.10)まで追いつかせ、保険として linux-lts を併存させた。再起動後は lts 6.18.33 で WiFi / カメラ / マイクが全部動作。「カーネルを上げると WiFi が死ぬ」という恐怖の根(out-of-tree ドライバ)を抜いたので、今後は -Syu で素直に追従できる。
- 起動不能の根本原因を特定して削除(in-tree のみに)。
- 固定をやめても、コケたら GRUB から lts で起動できる保険付き。
- パッチを当て続けられる体制になった = カーネル LPE のような脆弱性で被害がマシン全体に広がるのを止められる前提が整った。
まとめ
- カーネル更新で「起動はするがネット無し」の詰みは、たいてい out-of-tree な DKMS ドライバが原因。in-tree で足りるなら捨てる。
- カーネルだけ
IgnorePkgで固定する運用は partial upgrade になり、別の壊れ方を呼ぶ。Arch では full upgrade が原則。 linux-ltsを保険に積めば、最新がコケても live USB 無しで復旧できる。- 旧パッケージ(
/var/cache/pacman/pkg)は消さない。ロールバックの命綱。